2016 年 1 月 25 日 わざとキズをつける理由
「わざと表面にキズをつけるんです」
これは、
ある職人さんの言葉。
そこで作られているのは「鉄板」。
およそ畳一枚分ほどの鉄の板材を作り、
お得先に収める。
もう随分昔にNHKで見たっきりなので、
細かい製造工程は忘れてしまいましたけど、
「わざと表面にキズをつける」工程は
頭に焼き付いています。
9割ほどの工程は
機械で行われるので、
ほとんど職人の出番はありません。
ただ、機械で表面を「まったいら」にすることはできないらしく、
最後の仕上げは職人さんの手のひらの感覚だけで研磨し、
凹凸のない「まったいら」を実現するのだそう。
研磨直後の鉄板の表面は
まるで鏡のようにピカピカ。
ゆがみのない完璧な平面です。
ただし、
ここからが問題です。
せっかく仕上げた鉄板の表面を、
彫刻刀(のようなもの)でキズをつけていくんです。
深いキズではないけど、
細かく無数につけ、
板全体にびっしりとキズを入れていきます。
版画の版木のような感じです。
せっかくツルツルピカピかに出来上がったものに、
なんでわざわざそんなことをすると思いますか?
それは、平面の精度の問題。
人の手で研磨して仕上げることで、
異常に精度の高い平面が出来上がります。
もしこのまま納品しようとして、
板を何枚か重ねてしまうと、
板同士がピタッと吸い付いて
真空状態になり、
離れなくなってしまうのだとか。
だから、空気の逃げ道を作るために、
わざと表面に無数のキズを入れて、
吸い付きを防いでいる。
というわけです。
これほどの「平面」の技術は世界中どこをさがしてもなく、
まさに日本が誇るモノづくりの礎となっているのだとか。
精度が高すぎるからわざと落とす。
って、これしびれるなぁ〜。
高みを目指しているうちに
一回突き抜けちゃったから、
少し戻ってきた。
先週、ある取引先の製本会社さんを取材させてもらった時も、
これと似たような話がでてきて、
手作り風のファジーな風合いを出すために、
ある工程を手作業でやってみたところ、
むしろ機械より精巧でキッチリした仕上りになってしまった・・・。
という失敗談を聞かされたんですが、
「いや、職人ハンパねー」
ですよ。
ただただ脱帽。
こんなえげつない技術は
多分あちこちに無数にあって、
僕たちの生活を支えてくれてるんですよね。
もちろん僕自身は何の技術も持っていないけど、
頭の中に浮かんだことを形にしてくれる人たちが
まわりにいてくれるおかげで、
ご飯を食べさせてもらっています。
「当たり前」と思っていることは
全然「当たり前じゃない」。
感謝の気持ちを忘れずに、今日も頑張ろ!